街角小噺し : 父の料理
掲載日時: 2021-3-29 6:00:00 (9 ヒット)

仕事をしていた頃の父は料理なんて無縁の人でした。それが定年後、ある料理に関してだけは、家族の舌をうならせていました。 「父のけんちん汁」この味付けは、息子の胃袋をガッチリとつかんだようで、私が同じものを作っても「おじいちゃんの味と微妙に違うんだよなぁ」と偉そうにのたまいます。私も味見をしてその通りなので、苦笑いをするしかありません。
ゴールデンウィーク、夏休み、冬休みになる直前には父に電話で「もうすぐおじいちゃん家に行くからあれ作っておいて〜」と、ちゃっかり連絡していました。父も孫のお願いは嬉しいようで、いそいそと用意をして待っていてくれました。
その父も高齢で、自慢のけんちん汁はこの数年口にしていません。父が作るけんちん汁を傍でじっくりと見ていたのに、微妙に味の深みが違うんですよねぇ。
けんちん汁を作ると「おじいちゃんのが食べたいねぇ」と、しみじみとつぶやく息子と私です。